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エコロジーエクスプレストレンドウォッチ
2007年07月11日 

企業の環境教育が日本社会を変える

(NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部
シニアコンサルタント 坪井 千香子)


1.再び注目される企業の環境教育

 最近になって、企業の環境教育が再び注目されている。

 企業と環境の問題が社会的に注目されるようになった1990年代初めには、大手企業を中心として“環境にやさしい”をキーワードに、ISO14001認証取得、環境報告書の発行、そしてそれらの前段階として社内における環境方針・目標、行動計画等の策定と社内環境教育が注目され、各社がこぞって取り組んだ。当時の環境教育といえば、ISOにおける教育訓練にならい、自社の環境方針等を周知したり、基本的な環境問題や、自社の環境影響およびその対策などをプログラムにのっとり学習する、タイプが一般的であった。併せて、環境関連法規制の強化に伴って、化学物質対策、廃棄物対策等を自社の環境プログラムに取り入れて、いかに効率的にかつ効果的に学習を行うかが話題となった時期もあった。これらの環境教育は、例えば新入社員の研修や、階層研修等に取り入れられ、あるいは、ISO14001における年次の教育訓練として、毎年ルーティンのように実施され、その内容や取り組みも地道かつデスクワーク的なものが主体であったことから、社内外において、さして注目を集めたり、話題となるようなものではなかった。

 しかしながら、企業にとっての環境への取組みがCSR活動へと転換し、一時の環境ブームが落ち着いたところで、最近になって再び、企業の環境教育が注目されている。最近の環境教育は、今までのような一般的、かつコンプライアンス上不可欠な基礎知識の習得としての環境教育ではない。むしろ、本業に即した分野の環境教育を地域や他の団体等との協働によって実践することにより、自社の環境教育を、第三者を交えて行うことを通じて、改めて自社の事業活動を見直したり、地域社会との関係を構築・強化していったりと、環境知識の習得のみならず、地域社会への貢献や従業員満足の向上といったCSRにも結びつくような、実りの多いものとなっている。
 今回は、これらの企業における環境教育の最新事例とその実施の背景を紹介したい。

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2.持続可能な開発のための教育と企業

 企業における環境教育については、2003年10月に施行された「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」(環境保全活動・環境教育推進法)において、職場における雇用者への環境教育の実施および事業者等の協働による環境教育や環境活動の実践がうたわれている。しかしながら、本法律は努力義務を定めるものであり、事業者に対して強制力を有するものではなく、また本法律の施行および実施状況などについても、情報公開の徹底や教育実施に向けた具体的な働きかけなどはさほど行われなかったことから、企業においても環境教育に対する具体的な取組みや法律への対応等はさほど話題とされることはなかった。

 一方、2005年に国連において採択された「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」は義務規定こそないが、企業の環境教育を推進させるための追い風となるものであった。これは、日本からの提案、働きかけによって実現されたものであり、「持続可能な開発」を行うためには基礎教育、環境教育を充実させることによって市民への啓発活動を行うことが重要であるとの認識から、2005年〜2014年までを「持続可能な開発のための教育の10年」と定め、国連の下で、政府、各国機関、団体、企業等が主体間で連携を図りながら、教育・啓発活動を行うというものである。この決議を受けて、関連省庁等によって2006年3月に策定された実施計画においては、各主体におけるパートナーシップが強くうたわれているほか、事業者に期待される役割として、以下が示されている。

  • 環境、経済、社会の三つの要素を基盤として、国内外において持続可能な開発に合致し、さらには、それを強化する形や内容の事業活動を行うこと。

  • 企業内教育にESDを取り入れること。

  • 事業者・団体が持つ様々なネットワークを通じて、ESDのノウハウの拡大を図ること。

  • 学校、社会教育施設、NPO、地方公共団体など多様な主体と連携し、地域活動等に協力すること。

  • 専門性をいかして、学校教育、社会教育、地域活動等へ人材を提供すること。また、教育現場で活用できるESDに関するプログラム開発を行うこと。さらに、土地や施設を提供しESDに活用すること。


 併せて、これらの活動の推進を目的として発足した「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD-J)をはじめとして、各種のプログラムを実践、推進するための組織の準備され、様々な活動が展開されている。このように、公的に様々なプログラムが組まれたことで、企業は活動し易くなり、プログラムに協力するという形で様々な環境教育活動が展開されている。

 そのプログラムのひとつに、社団法人日本ユネスコ協会連盟と読売新聞社が主催する『ずっと地球と生きる:学校プロジェクト』というものがある。これは、「持続可能な開発のための教育の10年」の最初の3年間に、全国各地の小中学校において「総合的な学習の時間」に、企業から講師を派遣して出前授業を行うというものである。これまでに延べ13の学校において実施されており、参加企業としては、東京電力、東北電力、日本製紙、TOTO等の資源やエネルギーを扱う会社を中心として、ほぼ毎回異なる企業が参加している。授業は2回に分けて実施され、エネルギーや紙資源、水資源などに関する基本知識や地球環境との関わり、自分たちの生活との関わりと、それらの資源の省資源化、省エネ化について、紙を漉いたり、電池を作ったり、という体験を交えながら授業を進めていくというものである。

 これらの授業を通じて、未来を担う子供たちは、資源やエネルギーの大切さや、自分たちの生活との関わりを、体験型の学習を通じて楽しく、身近なものとして学ぶことができる。一方、企業側においても、これらの授業は一方的なボランティアというだけでは終わらない。授業の準備をする段階で、自社の環境活動などについて、改めて勉強しなおす、という基本的なものから、自社の事業に対して子供たちが真剣に話を聞き、驚き、感動する姿を見て、自社の活動に改めて自信や誇りを抱いた、というものまで、担当者自身が得るものも非常に多い。加えて、将来社会を担う子供たちに対して、その企業の事業活動に対する理解と共感を深めることにより、潜在的であるにせよ、マーケティング活動に寄与しているとも言えるであろう。

 一方、このような枠組みなどがなくても、対外的な環境教育を企業戦略の一部として積極的に展開している企業も少なくない。その中で、特に注目すべき取組みを行っているのは、シャープである。

 シャープは2006年10月より、民放等の気象キャスターが組織するNPO法人「気象キャスターネットワーク」との協働により、全国の小学校において地球温暖化問題、リサイクル、および同社が世界一のシェアを誇る太陽電池を中心とした太陽光発電に関する出前事業を実施する活動を展開している。同社の出前事業は、2006年度は55校において実施されており、2007年度には500校での実施を目標としている。 同社は、この出前事業を実施するために派遣する講師を「ECO・ナビゲーター」 と称しており、ECO・ナビゲーターを養成するための社内研修制度を設立している。このECO・ナビゲーターとして選出されるのは、全国の営業拠点から選ばれた第一線の営業社員である。彼らは、地域における環境教育のリーダーと成るべく選出され、研修を受けた後、出前教育を実践することとなる。日頃TVなどに出演している気象キャスターと、熱意あふれるECO・ナビゲーターによる実験などもあわせた授業は児童や教員から好評であり、全国の小学校からの申込みが相次いでいるという。

 企業の営業担当者は、企業の商品戦略を実現する担い手である。第一線で活躍する営業担当者に、自社製品の“売り”である環境性能の強みを正確に語らせることは、環境先進企業を標榜する同社にとって、ビジョンの実現のための重要な戦略の一環であると言えよう。 これらの環境教育は、従来の入門編の環境基礎教育の域を遥かに超えて、自社の企業戦略やマーケティングにも関わる重要な位置付けを有するに至っていると言えよう。また、これらに携わる担当者も、自社の環境活動等を直接市民、特に将来を担う好奇心いっぱいの子供たちに伝える任務への責任感や緊張感から、一層真剣に、環境教育を学習する機会となることは間違いなく、これらの機会を増やすことにより、企業の環境知識のレベルが底上げされることも期待される。

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3.環境教育の実践の場としての企業の森

 実践的な環境教育活動として、企業による森林の管理や植林等も多く行われている。

 サントリーでは、自社製品の生産のために、水源かん養機能を有する森林はなくてはならないものである、との認識から、水源かん養林の保全を自社の環境活動の柱と位置付けて、2003年以降、積極的な活動を展開している。「法人の森林(もり)」制度(※後述)の活用や、県などと森林管理に関する契約を交わすことにより、全国9カ所において「天然水の森」と称する森林保全活動を展開している。同社は、これらの森林において、従業員とその家族による森林保全活動を地元の団体やボランティアなどとの協働により実施している。これらの活動を通じて、従業員とその家族が、森林の持つ機能や大切さを体感して学ぶことに加え、地域との交流を図ることを目的としている。さらに、2004年からは阿蘇の「天然水の森」において、次世代環境教育の一環として親子を対象に「森と水の学校」を開校し、森林のすばらしさや大切さを学ぶプログラムを展開している。

 また、エネルギー企業各社においても、植林や森林保護活動は盛んに行われている。

 例えば、新日本石油は、全国6カ所において、地方自治体との契約又は「法人の森林(もり)」 制度の利用によって「ENEOSの森」と名づけた森林保全活動を展開している。当該森林において、従業員やその家族による植林、森林保全活動を通じて森林の体験学習を行うとともに、従業員を対象として「環境ボランティアリーダー研修」を実施し、自社の森林において森林保全活動を自主的に実施できる人材の育成を行っている。

 また、尾瀬に広大な土地を有する東京電力を初めとして、電力会社各社は、多くの社有林を保有している。これらの森林を利用して、社員による植林や森林保全活動を実施することにより、自社の環境教育に役立てると共に、地域住民らに開放したり、子供を対象とした自然教室などを開設すること等により、地域に対しても環境教育の場を提供し、地域との交流を行っている。

 これらの企業による森林保全や植林活動を後押ししているのが、「法人の森林(もり)」制度や県などによる企業の森林管理を推進する施策である。「法人の森林(もり)」とは、国と企業等が国有林を活用して森林管理や植林を協力して実施することにより、伐採後の収益を分配する制度であり、一定の契約期間中、対象の森林において、国が定める育林・造林などの計画に基づいた森林保全活動を実施したり、レクリエーション活動などに利用したりすることができるものである。平成17年度までに、140の法人により、全国420カ所、1,944haの森林が「法人の森林(もり)」として活用されている。

 また、都道府県においても、企業等による森林保全活動や森林利用を促進するための制度が設定されている。これは、県などが、管理が必要な森林の所有者と企業との仲介を行い、紹介された企業は、対象の森林において植林や森林保全などの作業を地域と協働して実施したり、保全活動に要する資金を提供したりする制度であり、現在、和歌山県、長野県、山梨県、静岡県、大阪府等23の都道府県で実施されている。 これらの制度が設立された背景には、林業の担い手不足や資金不足が全国的に深刻化しており、適切な森林管理が実施されないまま荒廃している森林が多数存在する現状があり、そこに環境教育やCSR活動の一環として環境保全活動を展開したい企業の力を活用し、協働を図ろうという考え方がある。さらに、これらの企業による森林活動を後押しする施策として、森林保全活動によるCO2削減効果の評価制度などが実施されている。京都議定書目標達成計画において、国内の森林の適正な管理および植林による温室効果ガスの吸収量は1990年度における温室効果ガス総排出量の3.9%(1,300万炭素トン)相当分とされているが、現状では、森林の荒廃により達成できない恐れがあることが指摘されており、適切な森林管理が急務とされている。しかしながら、その財源も人手も不足している中で、企業による森林保全活動は、非常に強力な助けとなることは自明である。また、企業においても、特に、温室効果ガス排出量が多い業種では、このような森林保全活動による貢献が、自社の温室効果ガス排出削減量に算入できるのであれば、社員教育や地域との交流によるメリットとあわせ、非常に利の多い活動となる。このようなwin-win関係を背景として、企業における森林をフィールドとした活動が近年活発に行われるに至っている。

 これまで紹介したように、企業の環境教育は、ベーシックな環境基礎入門講座から、より自社の事業活動に即した、又は自社にとっても戦略的に意義のある実践的な活動へと移行しつつあり、また、それらの動きはますます活発になる傾向にある。環境教育の受け手である従業員にとっても、従来型の集団講義や、デスクにおける研修もさることながら、地域の子供たちや人々、あるいは森林を相手に実践的な体験学習を通じて、自社の事業活動や環境の大切さを、身をもって習得することができる。このような企業による環境教育の実践は、持続可能な社会を構築するための市民への教育啓発とも言えるものであり、企業のCSR活動としても、非常に有意義なものである。今後、ますます効果的な環境教育が実践されることにより、企業の環境戦略としても、また持続的な社会構築においても有能な人材が多く育成されることが望まれる。

 また、かつて環境法規制対応に追われ、環境影響や環境法遵守について学び従う側であった企業は、いまや“環境”を武器にすることにより、技術やソリューションで世界をリードするようになってきているが、これからは、先進的な環境教育によって、人材の面においても、社内はもとより地域を率先するような環境リーダーを輩出し、新たな日本社会の環境教育の担い手となるかもしれない。

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