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エコロジーエクスプレストレンドウォッチ
2012年04月27日 

地熱発電の規制緩和と事業実施に向けて

(NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 シニアコンサルタント/前山 絵里)



1.日本における地熱発電の現状と規制緩和の動き

 2012年3月21日、環境省は、国立・国定公園での地熱発電の設置に関し、発電のための掘削を条件付きで容認する方針を発表した。規制緩和を受け、産業界は候補地の選定など事業の具体化に動き始めた。一方、国立・国定公園における開発が進むことについて、自然保護団体や研究者等からは懸念の声が上がっている。

 環境省による再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査によると、日本国内における熱水資源開発の賦存量は150℃以上で 2,357 万 kWと推計された。これは世界でもトップクラスで、アメリカの3,000万 kW、インドネシアの2,779万 kWに続く第三位と、日本の地熱発電は高いポテンシャルを有している。しかし、現在、日本で導入されている地熱発電設備は18カ所の約53.4万kWで、試算されたポテンシャルの2%程度である。

 地熱ポテンシャルのある地域は、約8割が規制区域である国立・国定公園内に位置する。地熱発電の設置には熱水を得るための掘削が必要となり、国立・国定公園における設置は規制されていた。しかし、2011年3月の東日本大震災を受けて進められている規制・制度改革に係る対処方針の中で、安定的な再生可能エネルギー源の一つである地熱開発の規制緩和が検討対象となった。環境省では、2011年6月から「地熱発電事業に係る自然環境影響検討会」を開催し、検討会で出された基本的考え方を受け、この3月に「国立・国定公園内における地熱開発の取扱い」に関して通知を行った。あわせて、従来は温泉開発と同じガイドライン下で取り纏められていた地熱発電の開発のための掘削に関し、「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)」が策定されるなど、地熱発電の導入促進に向けて大きく舵が切られた。

 今回出された規制緩和の通知では、国立・国定公園内において特別地域の外から斜めに掘削を行う「傾斜掘削」の容認、既存の温泉水を活用する「バイナリー発電」の容認、さらに、特別地域における「垂直掘り」の容認が出された。ただし、容認される地種区分は第2種特別地域、第3種特別地域、普通地域においてのみで、自然環境の保全や公園利用に支障がないものに限る。




2.国立・国定公園における地熱発電所の建設

 では、どのような条件下において、国立公園内に地熱発電所が容認されるのか。
環境省の通知では、発電所の建屋の高さの低減、蒸気生産基地の集約化、配管の適切な取り回しなど影響を最小限に留めるための技術や手法の投入を取組例としているが、「個別に検討」し、「優良事例の形成について検証」することで実施を判断することとしている。つまり、具体的な基準は明確にせず、ケースバイケースの検討となる。

 2010年、愛知県名古屋市で行われた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で定められた愛知目標では、保護地域の拡大として、陸域17%、海域10%という具体的な数値目標が示された。国立・国定公園はまさにその保護地域となるが、現状、日本国内の国立・国定公園は陸域9.1%、海域5.9%に過ぎない。環境省では、愛知目標の達成に向けた取組として、公園区域の拡張を検討している。また、狭い国土で様々な環境が複雑に入り組んだ自然環境を持つ日本では、代償ミティゲーションの適用も限られるだろう。安定的な再生可能エネルギーとしての地熱発電の拡大は環境省として進めるべき方策であるが、COP10の開催国として、国際社会に対しては国内における保護地域の拡大・保全も課されていることを念頭に置くべきある。

 また、環境省管轄の国立・国定公園における規制緩和は通知されたが、林野庁管轄となる保安林についての許可要件については見直している段階となる。環境省に続いて林野庁でも緩和の方針が出ると考えられるが、地熱発電所設置による自然環境影響については厳しいチェックが入るだろう。

 その状況下で、国立・国定公園内に地熱発電所の建設が許可される「優良事例」とは何か。
規制緩和の通知を受け、福島県の磐梯朝日国立公園において、国内最大規模となる出力27万kW(約7万世帯分)の地熱発電所を建設する方針が固められた。出光興産、国際石油開発帝石、三菱マテリアルなど9社の参加が想定されるプロジェクトで、2020年頃の稼働を目指している。なお、福島県のほか、秋田県湯沢市の栗駒国定公園内、北海道釧路市などにまたがる阿寒国立公園でも地熱開発の検討がされている。これら個別の事例では、各事業者が地域住民や各都道府県の合意を取り、地熱資源量の調査および環境アセスメント調査を実施し、その結果をもとに都道府県における許認可を経て、事業開始となる。

 今回検討に上がった地熱発電所建設方針の中でも、福島県の事例は、環境省はじめ経産省からの関心も高く、「優良事例」の第一号となりうるか、今後の動向が注目される。




3.地熱発電所建設の課題と事業実施への足がかり

 以上のように、今回出された規制緩和は地熱発電所建設の後押しとなり、具体的な事業も検討に上がっているが、事業実施に向けての課題は施設建設以外にもある。
第一に、発電所から最寄りの変電所への送電設備である。自然公園法では、景観の保護が重要視されており、国立・国定公園内への鉄塔建設はハードルが高いだろう。送電部分を鑑みると、国立・国定公園における発電所の設置は境界部分に限られると考えられる。また、自然環境への影響を考えても境界部分が妥当となるだろう。

 第二に、2012年7月から開始される固定価格買取制度の継続である。大規模な地熱発電所は、地熱資源量の調査、掘削、プラント建設完了まで長期に渡り、稼働に入るまで10年程度の期間が必要となる。現在の議論では固定価格買取制度を前提とされているが、稼働開始となる10年後まで買取制度が継続されているとも限らない。事業者にとっては買取制度が無い場合においても事業採算性を確保することが課題となる。

 第三に、温泉地を含む地元の理解である。特に温泉地では、地熱発電所の建設に伴う掘削が湯量の減少に繋がるのではないかという懸念が大きい。温泉地では源泉の減少は直接収入の減少と結びつくため、地熱発電所設置による影響について、十分な説明と理解が重要となる。

 一方で、規制緩和の中には、既存の温泉水を活用する「バイナリー発電」の容認が含まれている。バイナリー発電とは、温度の低い蒸気でも発電できるよう、低沸点媒体を用いる発電の仕組みで、70〜120℃程度の温水で発電できる。新たな掘削を必要としないため、温泉地における発電に活用できる点で注目されており、福島県土湯温泉では地域復興の目的で温泉発電の事業化調査が始められている。

 温泉発電は、環境省でも推奨しており、補助事業(温泉エネルギー活用加速化事業)も出されている。温泉発電は、既に掘られている温泉を用いるため掘削におけるコストがかからず、温度と泉量の情報があれば発電量の試算ができる点で、事業化を進めやすい。さらに、温泉発電も固定価格買取価格の対象であり、温泉地域で共同の事業者を立てて発電事業を行い、買取分を温泉事業者へ還元するなどの仕組みを整備できれば、地域のメリットともなりうる。

 今回の規制緩和により、地熱発電所の建設計画を検討の俎上にあげることができるようになったが、地域の理解を得るというハードルはまだ高い。そこで、まずは温泉地において温泉発電を進め、温泉発電のメリットを広めていくことで、地熱発電に対する理解を温泉地を含む地元に得てもらうことが必要だろう。温泉発電を進めるにあたっては、温泉地において事業者となるプレーヤー、地元への利益還元の仕組みが必要と考えられる。温泉地では地域の活性化が課題となっている場合が多く、地域活性の一つとして地域ぐるみの温泉発電事業を進めるモデルケースができれば、各地で温泉発電事業が追随すると考えられる。掘削の有無など実施条件の違いはあるが、温泉発電事業など事業を実際に進めていくことで、地熱発電への理解を段階的に広めていくことが必要である。