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エコロジーエクスプレストレンドウォッチ
2012年07月31日 

電力システム改革と新電力ビジネスの可能性

(NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 コンサルタント/佐久間 洋)


1.新電力(PPS:特定規模電気事業者)のニーズの高まりと事業課題

 東日本大震災によってもたらされた電力価格の上昇から、電力小売りを行う新電力(PPS:特定規模電気事業者)への需要が高まっている。神奈川県厚木市は7月から市役所本庁舎の電力購入先を東京電力から新電力のエネットに切り替えると発表した。同市は、エネットに切り替えることで年間76万9,063円の電気料金の節減を見込んでいる。また、茨城県の牛久市も市内の13施設について、新電力との契約に切り替えると発表している。東京電力の料金値上げ対策として、コスト競争力のある新電力への期待は高い。

 新電力への需要家からの高い期待がある一方、新電力はチャンスを十分に生かせていない。これは、主に以下の3つの課題に因るところが大きい。

 @ 電力の安定調達
 A 小売規制
 B 託送コスト

 1つ目の課題は電力調達である。新電力は、自前の発電機を保有する一部事業者を除くと、主に企業の自家発電機や自治体のバイオマス発電、卸電力市場などから電力を調達している。しかし、電力需給のひっ迫から新電力への売電量が減少し、電力調達が難しくなっている。更に、新電力が自治体から電力を調達する際の入札価格が高止まりしており、電力の調達コストが上昇している。新規の引き合いに新電力が十分対応をするためには、コスト競争力の高い電力を安定的に調達することが必要である。

 2つ目の課題は受電容量50kW未満に対する小売規制である。我が国の電力小売りの規制緩和は2000年の第二次規制緩和から順次進んでおり、現在では受電電圧6000V以上かつ受電容量50kW以上まで自由化の対象が拡大している。しかし、受電容量50kW未満の需要家である一般家庭等は規制緩和の対象となっておらず、新電力は小売をすることができない。

 3つ目の課題は託送コストである。自営の電線を保有している一部の事例を除き、新電力は電線を保有せず、送電する際には系統線上で託送する。この際、新電力は系統線の所有者である一般電気事業者に託送費用を支払う。また、30分間の電力需給にギャップが生じた場合には、一般電気事業者が補填した電力量に相当する費用(インバランス料金)を支払う義務が課せられている。新電力の経済産業省への提案資料によると、インバランス料金は高額な料金制度であるため、新電力の収益悪化要因となっている。



2.電力システム改革動向と新電力への影響

 2012年7月13日に開催された経済産業省の第8回電力システム改革専門委員会において、今後の電力システム改革の方向性を定める基本方針(案)がとりまとめられた。基本方針(案)は、我が国の電力システムを大幅に改革する内容で「需要サイド(小売分野)の改革」、「供給サイド(発電分野)の改革」及び「送配電分野の改革(中立性・公平性の徹底)」が提起されている。一般電気事業者の事実上の独占体制を崩し、競争環境を整備する改革である。電力システム改革の実現に伴い、新電力の競争力向上が予想される。

 電力システム改革の基本方針(案)では、新電力の3つの課題解決に寄与する方策が明確に提示されている。具体的には以下の3点である。

 @ 卸電力市場の活性化
 A 小売の全面自由化
 B 託送制度見直し(「30分同時同量ルールの見直し」)


@卸電力市場の活性化
 「供給サイド(発電分野)の改革」では、発電の全面自由化(卸規制の撤廃)及び卸電力市場の活性化が提起されている。現行制度では、卸電気事業者(J-POWERなど)及び卸供給事業者(IPP)は、卸規制により長期・大量の供給義務を課せられているため、新電力や卸電量取引所への売電は困難である。改革案では長期・大量の供給義務を課す卸規制を撤廃することで、新電力や卸電量取引所への売電を容易にし、発電事業者の自由度を高める方針が示されている。また、一般電気事業者及び卸電気事業者の卸電力市場への参加促進の方策検討と、当面の措置としての新電力の電源確保のための「部分供給」のガイドライン化が明記された。

A小売の全面自由化
 「需要サイド(小売分野)の改革」では、小売全面自由化(地域独占の撤廃)が提起されている。具体的には、一般電気事業者による地域独占が法定されている家庭等の受電容量50kW未満の小口小売部門について、需要家が供給者や電源を選択できるよう、全面自由化を実施するという内容である。

B託送制度見直し(「30分同時同量ルールの見直し」)
 「送配電分野の改革(中立性・公平性の徹底)」では、現行のインバランス料金制度の廃止と、インバランス調整料金メカニズムの完全透明化が提起されている。インバランス調整料金のメカニズムが完全透明化された場合、インバランス料金の値下げが期待され、新電力の収益構造の改善が見込まれる。

 新電力が抱える「電力安定調達」への懸念に関しては、上記@にて記載したように、卸電力市場が活性化するまでの当面の措置として、「部分供給」の活用が有効である。「部分供給」とは、新電力が不足している電力供給を他の発電会社が賄う契約形態である。また、上記Aにて記載したように、小売が全面自由化された場合、それぞれの家庭は自らのライフスタイルと照らし合わせながら、最も経済的に有利な料金プランを提示した電力会社を自由に選択し、契約できるようになる。更に、環境志向の強い家庭ならば、高コストでも環境負荷の少ないクリーン電力を提供する電力会社を優先的に選択するといったケースも想定される。新電力は、多様な料金プランの提示や、クリーン電力のみを扱うなど、多様なサービスを準備することで、大手電力会社よりも比較的小回りがきく新電力の小口小売部門での競争力拡大が期待される。



3.新電力事業への新規参入と固定価格買取制度を踏まえた新たなビジネスチャンス

 電力システム改革への期待とともに、新電力事業への新規参入者が相次いでいる。関東と東北の工場に余剰電力約20万kWの大規模な自家発電機を有する日本製紙は、2012年10月1日から新電力事業を開始する。日本製紙以外にも、阪和興業、フジコーなど、2012年4月1日以降に新電力事業を開始する事業者数だけでも、合計12社にものぼる。経済産業省のホームページによると、本稿執筆時点(2012年7月末)での新電力の全登録事業者数は62社(事業開始前含む)である。したがって全登録事業者数のおよそ2割が、2012年4月1日以降に新電力事業を開始する新規参入ということとなる。

 新電力事業への相次ぐ新規参入の背景には、電力システム改革への期待に加え、東京電力の電気料金値上げや東京料金の託送料金値下げを踏まえた、新電力の競争力向上がある。6月、東京電力は託送費用を4年ぶりに10%程度下げると発表した。家庭向け電気料金の値上げ申請に伴う原価見直しで、送電設備の建設費などを圧縮した結果である。託送料金低減は、電気料金の値上げを行う東京電力に対して、新電力の価格競争力の向上に寄与する。

 2012年7月からは再生可能エネルギーの固定価格買取制度が開始した。固定価格買取制度は、新電力にとって新たなビジネスチャンスとなる可能性がある。固定価格買取制度では、電力会社は再生可能エネルギーによる電力を固定価格で買取ることが義務付けられている。例えば太陽光発電による電力の場合、1kWh当たり42円である。再生可能エネルギーによる電力を買取った電力会社には、費用負担調整機関から買取費用の交付が行われる。これは、電気料金とあわせて電力会社が広く回収した賦課金(サーチャージ)を、買取り実績に基づいて電力会社へ配分するというプロセスである。配分金額は、電力会社が再生可能エネルギーを買取った金額から、その電力会社の回避可能原価を差し引いた額が配分される。回避可能原価とは、電力会社が再生可能エネルギーを買取ることで、本来行うはずだった発電を取りやめる場合に支出を免れるコストであり、電力会社の実質的な買取価格となる。電力会社各社の回避可能原価を図表1に示す。

図表1:電力会社の実質的な買取価格である回避可能原価

出典:経済産業省資料より筆者作成


 新電力の回避可能原価は1kWh当たり6.44円となる。卸電力取引市場でのスポット価格は1kWhあたり十数円であるので、仮に託送費用等を考慮しないで単純な差分のみをとると、新電力が積極的に固定価格で電力を買取り、その電力を売電すれば収益があがることとなる。ただし、現在の回避可能原価には直近の原発停止による燃料費上昇分等が含まれていない点に留意が必要である。つまり、将来的には回避可能原価が上昇する可能性が高い。また、再生可能エネルギーには出力変動の課題があるため、売電をする際には対応の検討も必要である。

 東日本大震災以降、電力業界は変化の時期を迎えている。電力システムの改革や全量買取制度など、新しい仕組みを有効的に活用することで、新電力に今後新たなビジネスチャンス生まれる可能性が高い。今後の動向が注目される。