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エコロジーエクスプレストレンドウォッチ
2012年09月28日 

海を渡る廃棄物の行方 - 漂流・漂着ごみの処理にリサイクルビジネスの力を -

(NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 シニアマネージャー/林 孝昌)


 東日本大震災の津波で太平洋に流れ出た震災がれきは150万トンに及ぶと言われており、その到達先となる米国及びカナダの各州に対して、我が国政府は合計600万ドル(約4億8千万円)の処理費用を支払うことを表明した。国際法上、自然災害による漂流物を処理する国際的な義務は被災国にはないため、支出先への補償ではなく「グッドウィル(善意)」の支払と位置付けるとのことである。義務云々はともかく、我が国には今も海のごみの処理に係る国内制度が存在しており、「我が国及び周辺国にとって共通の課題であるとの認識に立って、その解決に向けた国際協力の推進が図られるよう十分配慮されなければならない」と明確に規定されている。平成21年7月に成立したこの制度の名称は、「海岸漂着物処理推進法」という。
 同法が規定する海外漂着物とは「漂着したごみその他の汚物又は不要物」と定義されるが、海中に浮かんでいる漂流ごみと合わせて「漂流・漂着ごみ」と呼ばれる。そもそも法案作成と成立は、同年に日本海沿岸部を中心にハングル文字が記載されたポリタンクが大量に漂着したことがきっかけとなった。すなわち、漂流・漂着ごみの取扱及び処理負担の在り方はそもそも国際的な懸案事項なのである。
 政府による支払意向表明に先立ち、政府の方針に則って米国での海岸視察や地元NGOとの協議、支援規模の検討等を実施したのは、我が国のNGO(一般社団法人JEAN等)であった。NGOが派遣された理由は、1990年から取り組んできたICC(International coastal cleanup)という世界的なネットワークに参画しているためであり、同ネットワークの主催団体である米国のOC(Ocean Conservancy)との協力により、各州のコーディネーターとの情報交換等のチャネルを有していためである。こうした非常時に、実績と能力を有する有志の市民に最大限の力を発揮してもらうこと自体は素晴らしい。ただし、外交課題でさえある国際的な廃棄物処理の担い手を、ボランティアに任せざる得ない現状は決して健全とは言えない。政府や地方公共団体が漂流・漂着ごみの処理にあたってその陣頭に立てない理由は、国内においてさえ処理責任の所在と実務的な解決方策が曖昧なことによる。





 「漂流・漂着ごみ」は、「ごみ」という名称の通り、原則として一般廃棄物である。ただし、廃棄物処理法では「土地又は建物の占有者(占有者がない場合には管理者)に対して、その占有し、又は管理する土地又は建物の生活を保つ努力義務が課される」ものとされており、その排出者が明確でない以上、海岸法が定める「海岸管理者」がその処理主体になることを求めている。全国の海岸管理者は概ね都道府県であり、一般廃棄物の処理実務のノウハウは有していない。更に、どの程度の清潔保持を行うかの判断は各海岸管理者の裁量に委ねられているため、予算の目処が立たない場合、極端に言えば都道府県は漂着ごみを「見て見ぬふりをする」との判断を行わざる得ないケースもある。
 そこでNGOやNPOが、自らが居住する地域の海岸を清潔にすることを目的に善意のクリーンアップ運動等を行い、漂流・漂着ごみの回収・集約を行っている。集まったごみは、「地域の生活環境保全上看過できない状況」を鑑みて本来処理責務を有さないはずの市町村や一部事務組合が一般廃棄物としての処理を行うことになる。市町村等による処理が容易であれば何の問題もないが、その実態は過大とも言える負担となっている。なぜなら、漂流・漂着ごみはその組成が不安定であり、海水由来の塩素分が高いからである。
 特に塩素分が高い廃棄物は、処理を担うほとんどの施設における「嫌われモノ」である。焼却炉であれ、セメントキルンであれ、バイオマスボイラーであれ、ダイオキシンの発生原因となるし、何よりも激しく炉を傷めるからである。環境省の統計によると、平成22年度のごみ総排出量は4,536万トンで、建設改良費を含むごみ処理事業総経費は18,390億円であった。単純計算すれば1トン当たりの処理費は40,542円となるが、漂流・漂着ごみの場合、海岸からの回収作業がボランティアにより無償で行われ、更に建設改良費のコスト上昇を招くことを考えれば必要な費用は更に大きくなる。海岸に漂着するごみだけでも、全国で年間15万トン以上と言われる現状を鑑みると、こうした臨時的な処理費用が自治体財政に大きな負荷を与えていることは自明である。
 海岸漂着ごみ処理法は、国の基本方針に則って地方公共団体等の海岸管理者が定める地域計画に則って処理を行い、その費用について政府が必要な財政上の措置や配慮を行うことを求めている。同法の施行以来、関係各省庁が単年度毎の予算措置を行うことで、海岸管理者である都道府県が主体となった処理を進めるという基本的な処理体制が構築されたようにも見える。ただし、肝心の処理技術における革新が進まない以上、根本的な解決には程遠いというのが現状だ。




 では、漂流・漂着ごみ問題の根本解決には何が必要なのか?筆者は産業廃棄物処理事業者等リサイクルビジネスの本格参入こそがカギを握るものと考える。そもそも「実質的な排出者が不明」という特殊性を鑑みれば、廃棄物処理法における廃棄物の区分は問うことさえナンセンスである。より合理的で広域的なアプローチが期待されるリサイクルビジネスによる回収・処理は、コスト対効果という観点でより効率的となる旨は想像に難くない。
 広域処理を前提とすれば、新たな知恵も生まれる。例えば北九州市に所在する光和精鉱株式会社では、「塩化揮発法」と呼ばれる独自の技術により、塩素分が高く重金属含有割合も高い「溶融飛灰」等の受け入れ処理を行うことで、金属元素の濃縮・山元還元を通じたリサイクルを行っている。漂流・漂着ごみの発生量が多い日本海沿諸都市を南下する海上物流ルートを確立して同社の施設に搬入し、帰り便で建設資材になり得る鉄鋼スラグ等を復興需要のある東北地方に持ち帰る、といった広域リサイクルシステムを構築できれば、漂流・漂着ごみ処理のフラッグシッププロジェクトになり得る。炉の劣化に伴う建設改良費等外部不経済の分まで見込んだ正確な単価設定を行えば、純粋なビジネスベースでの回収・処理システム構築の道が開ける可能性も高い。
 通常メディアでは、漂流・漂着ごみについて、「心ない人々の環境破壊」や「ごみの投棄」がウミガメや海鳥等を傷付けているといったコンテクストでのみ取り上げられる。確かに廃プラスチック等人工物による環境破壊や景観破壊は大きな問題である。ただし、仮に心ない人々が全くいなくとも、河川から流れ込む流木等自然物が組成の4割程度を占めており、漂流・漂着ごみはなくならないという点を忘れてはならない。であればビジネスの力を借りることで、全国規模で持続可能な回収・処理システム構築を目指すことを真剣に考えるべきであり、今回の震災がれき海外漂着をその契機にするべきではないだろうか。