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エコロジーエクスプレストレンドウォッチ
2012年12月28日 

シェールガス開発の環境リスク

(NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 マネージャー/加島 健)


1.高まる天然ガス需要

 2012年5月に寄稿した「シェールガスは国内エネルギー安定供給確保のための「特効薬」となるのか」にて触れたが、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が2011年に公表した「World Energy Outlook 2011 Special Report 〜Are we entering a golden age of gas? 〜」(以下、WEO11SR)では、非在来型天然ガス(Unconventional Natural Gas)を含めた天然ガスの埋蔵量は250年以上※と見積っており(※但し、当時の天然ガス消費量をベースとして算出)、天然ガスの供給ポテンシャルは飛躍的に向上している。

 我が国では、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故を受け、望ましいエネルギーミックスのあり方について議論が進められている。9月に公表された「革新的環境・エネルギー環境戦略」では、エネルギー安定供給確保のために「火力発電の高度利用」を掲げており、火力発電の中では比較的CO2排出量が少なく、再生可能エネルギー普及時の高い調整機能が期待されるLNG火力発電について、国内パイプラインの整備や北米からの輸入ルート等の構築とともに、燃料である天然ガスの安定供給と低廉化の実現を謳っている。さらに、「安定的かつ安価な化石燃料等の確保及び供給」を行うため、今後の天然ガスシフトを支えるための国内パイプライン等の供給基盤を整備する旨記載されているが、北米からの輸入ルートについては、米国にて開発が進んでおり、米国自身のエネルギー政策に大きな影響を与えている「シェールガス」の存在抜きに語ることはできない。

 同月に東京で開催された「LNG産消会議」において米国エネルギー省(DOE)は、米国におけるガス供給全体に占めるシェールガスの割合が2010 年の23%から2035 年には49%まで急増する見込みであること(図1参照)、バランスは需要過剰が解消してきており、2020 年過ぎには国内供給が消費を上回り、純輸出国になる見込みであると述べた。12月に米エネルギー情報局(EIA)が公表した2013年のエネルギー見通しの暫定版では、2016年に液化天然ガス(LNG)の純輸出国となり、2020年には天然ガス全体でも純輸出国になると見立てている。なお、我が国は米国と自由貿易協定(FTA)を締結していないため、LNGの輸出は制限されているが、シェールガス生産の拡大に伴い、米国内にてエネルギー産業を中心に輸出制限の緩和を求める声が高まっている。

図1
図1:米国における種別天然ガス生産量見込(単位:1兆立方フィート)
(出典:米エネルギー情報局(EIA)資料)


 このように米国を中心としたシェールガス開発の拡大に伴う天然ガスの安定供給・低廉化に対する期待は高まるばかりである。一方、シェールガス開発に伴う地震誘発や環境汚染への懸念がクローズアップされている。本稿では、シェールガス開発に伴う地震誘発リスクや環境汚染リスク等について、地震誘発リスクは英国でのシェールガス開発事例、環境汚染リスクは米国での水質汚染に関する議論を中心に述べることとする。



2.シェールガス開発リスク(地震誘発、水質汚染)

(1)英国Cuadrilla Resources社によるシェールガス開発

 英国エネルギー企業であるCuadrilla Resources社は、2011年3月31日からランカシャー州Bowland Basinにて水圧破砕を用いたシェールガス探査を開始したが、探査開始直後の4月1日にブラックプール周辺でマグニチュード3.1、5月27日にはマグニチュード1.5の地震が発生したため、6月初旬に掘削を中断した。英国地質調査所(BGS :British Geological Survey)によるモニタリングの結果、2件の地震は水圧破砕実施後から数時間以内であったことや地震計の波形等が似ている等、共通項が多く存在することが確認された。

 Cuadrilla Resources社は、今回発生した地震の原因究明に関する報告書を公表し、報告書では、水圧破砕は微小な地震活動を誘発する可能性が高いがブラックプールの事象は例外的であることや、研究所でのコア試験にて今回の掘削箇所が非常に滑りやすい地層であることなどに言及している。また、この採掘地は“運悪く”断層にぶつかってしまったこと、将来のサイトで同様の状況は起こりにくいであろうとも述べている。さらに、今後の掘削孔の掘削工事では、破砕作業の削減や掘削スピードの低下、注入水の回収の迅速化(=過度な圧力の低減)などに取り組むことにより、地震誘発リスクの減少に繋がるのではないかと結論づけている。

 英国エネルギー・気候変動省(DECC:Department of Energy and Climate Change)は、2012年4月にキール大学や英国地質調査所の協力のもと、水圧破砕による誘発地震を軽減するための対策を推奨するレポートを公表した。その中では、Bowland Basinで将来の地震発生リスクを低減するための具体策として、効果的なモニタリングの実施やマグニチュード0.5以上の地震が発生した場合には水圧破砕技術による操業を停止するなどの内容が盛り込まれた。なお、英エネルギー・気候変動省は今月、国内での「水圧破砕法(フラッキング)」によるシェールガス採掘再開を承認した。その条件として、水圧破砕時におけるモニタリングの義務付けなどを盛り込んでいる。

(2)米国のシェールガス開発における水質汚染リスク

 水圧破砕による水質汚染リスクに係る議論は、シェールガス開発が最も進んでいる米国で数多く議論されている。水圧破砕による水質汚染の可能性は多く取り上げられているものの、水圧破砕と水質汚染を関連づける決定打となる報告は現時点では公表されていない。

 米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)は、2011年12月にワイオミング州パビリオンの地下水汚染が、汚染物質の根源は不明であるもののフラッキングを含む天然ガス生産活動と関連する可能性があるとする報告書案を公表した。但し、EPAの検査方法などに対する批判が出たため、米国地質調査所(USGS)による再調査を行ったが、EPAが行った調査と同等の水質汚染を示すデータが検出された。報告書案の内容については2012年12月時点においても議論が継続中であり、報告書案に対するパブリックコメントの受付は2013年1月まで延長されている。

 テキサス大学エネルギー研究所(The Energy Institute of the University of Texas at Austin:EIUT)の調査研究では、水圧破砕に伴い地表下で水圧破砕に用いた化学物質に起因する帯水層の汚染が生じているという証拠は見つかっていないことや、地下水汚染に関する報告書の多くは、掘削孔の不適切なケーシングやセメントなど、従来の石油や天然ガスの抽出作業で発生しており水圧破砕だけに特定されていないこと、シェールガス掘削地域にある井戸で発見されるメタンガスはほとんどが自然発生源であり、シェールガス採掘開始前から存在していた可能性が高いなどと述べている。また、調査研究では監査機関の適切性について言及しており、主要なシェールガスの監査機関は州レベルであり、いくつかの州ではシェールガス開発の進展に伴い、特に「水圧破砕に用いる化学物質の開示」「帯水層汚染を避けるための井戸の適切なケーシング」「フローバックや作業で発生した廃水管理」に焦点を当てて規制を改訂しているが、井戸のケーシングとセメント使用、水の回収と利用法、廃棄物の保管と管理に関する規制は未だ十分ではないと結論づけている。



3.地震誘発・水質汚染リスクが今後のシェールガス開発に与える影響

 シェールガス開発に伴う地震誘発リスクは顕在化しており、水質汚染リスクも極めて不透明な状況であるものの、シェールガス開発により得られる恩恵が大きい国は、リスクテイクしてもシェールガス開発を積極的に推進していくスタンスだ。

 例えば英国は自国の発電電源構成割合の7割以上を石炭火力と天然ガス火力で占めていることや、シェールガス産業の発展を図り、ガスの輸入依存を減らす狙いがあることから、シェールガス開発による天然ガスの安定確保はエネルギー政策上、非常に重要な位置付けとなっている。英国国内での「水圧破砕法(フラッキング)」によるシェールガス採掘再開の承認や、シェールガス探査における税制優遇を検討する背景には、このような事情が存在する。

 米国はシェールガス開発に伴う安価な天然ガスの確保・増産が、石油化学産業を中心とした自国産業の競争力強化などに繋がっているため、中長期的にもシェールガス開発が進められていくことになるだろう。

 一方、水圧破砕によるシェールガス開発を禁止しているフランスは、健康や環境へのリスクが払拭されない限り、水圧破砕によるシェールガス開発を認めないという予防原則を徹底しているが、その背景には、自国の発電電源構成割合の7割以上を原子力が占めており、現時点では天然ガス開発に躍起になる必要性に乏しいという事情がある。

 世界的にシェールガス開発に伴う地震誘発や環境汚染への懸念がクローズアップされているため、シェールガス開発を進めるうえでは、地震誘発・環境汚染リスクに関する十分な調査研究(リスク評価、等)やシェールガス開発時における各種モニタリングの徹底、各種リスクの調査研究結果・事業のモニタリング状況に関する対外的な説明責任がより一層求められる。

 今後、シェールガス開発と地震誘発・環境汚染との関連性の有無が明らかにされていくことになるだろうが、その動向を注視しなければならない。