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エコロジーエクスプレストレンドウォッチ
2013年08月31日 

「小型家電リサイクル法」の含意

(NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティング本部 シニアマネジャー/林 孝昌)


第1節

 本年4月1日付で施行された「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律」(以下、「小型家電リサイクル法」という。)は、ユニーク且つ不思議な制度である。

 まず、主要な関連主体にとっての制度的責務が全く存在しない。自治体による制度参画は任意であり、「分別収集計画」のような目標設定を行う必要さえない。「特定対象品目」や「制度対象品目」は具体的に示されているものの、自治体が任意に選定する「小型電子機器類等」という大枠での回収システム構築を前提としているため、メーカ等に回収・再資源化義務を課すことも出来ない。排出者である市民も、後払いのリサイクル料金等を支払う必要はなく、あくまで行政回収や店頭回収に「協力」することが求められているに過ぎない。すなわち、「制度は施行されたが誰も何もしないで何も変わらない」という状況も理屈上は有り得るのだ。

 また、本制度の検討プロセスでは、「都市鉱山」をキーワードにレアメタル回収の重要性やその実現可能性に係る議論が行われてきた。ただし、制度化にあたって省令に則った報告が定められた回収物は、鉄、アルミニウム、銅、金、銀、白金、パラジウム及びプラスチック、という常識的な線に落ち着いており、いわゆるレアメタルの回収を強制する記述はどこにもない。非鉄金属回収にあたって、現実的には精錬施設との連携が必要となるが、いわゆる再商品化手法についても具体的な規定は存在しない。

 こうした中、政府は平成27年度までに14万t/年、1人当たり1s/年の回収実現 (回収率約20%)を目指している。使用済み小型家電製品の発生量651千トンと言われており、一般廃棄物からし尿を除いた「ごみ」の総排出量45,385千トン(平成23年度実績)の1.5%にも満たないため、目標を達成してもそのごみ減量効果は極めて限られた範囲でしかない。今も多くの自治体では不燃ごみあるいは粗大ごみとしての処理が定着しており、その適正処理に技術的課題がある訳でもない。

 「ないない尽くし」の中での制度施行が「大山雷同して鼠一匹」に終わるかと言えば、実態はむしろ逆である。小型家電リサイクルへの取組意向を有する再資源化事業者の多くが、いわゆる「認定事業者」となるための詳細な「再資源化事業計画」を主務省に提出しており、8月9日時点で全国20事業者が大臣認定を受けるに至っている。環境省が実施した自治体アンケート調査では、約3/4の自治体が制度参画を前向きに検討中であり、5月に公募が行われた実証事業には政令指定都市を含む65自治体が参加意向を表明している。ではなぜ、再資源化事業者や自治体は積極的に小型家電リサイクルに取り組むのだろうか?

 本稿では、再資源化事業者と自治体それぞれの目線から小型家電リサイクル法への取組意義等に係る考察を行った上で、制度の行方等についての検証を行う。



第2節

 小型家電リサイクル法は、「使用済小型電子機器等の再資源化事業を行おうとする者が再資源化事業計画を作成し、主務大臣の認定を受けることで、廃棄物処理業の許可を不要とし、使用済小型電子機器等の再資源化を促進する制度」である。この場合の「再資源化事業を行おうとする者」は、言うまでもなく既存一般廃棄物処理事業者以外を指している。具体的には、いわゆるスクラップ業と呼ばれる鉄・非鉄金属の卸売や前処理を担っている事業者、更には広域的なリサイクル事業を営む産業廃棄物処理業者等が含まれる。認定事業者は自らが再資源化の能力(施設や設備等)を保有する必要はなく、委託先を含めて再資源化スキームを確立していれば認定を受けられるため、商社や家電量販店等による事業参入も見込まれる。各自治体の中で閉ざされていた一般廃棄物処理に「業の許可」を持たない事業者が参入出来ること自体が本制度の特徴であり、再資源化事業者にとっての新たなビジネスチャンスとなる。

 また、認定事業者の「再資源化事業計画」では、広域化による採算性向上の効果が一定程度見込める水準として、北海道と沖縄を例外に「3以上の都府県の全域」が都道府県数に関する区域の基準と定められている。全国で651千トンという使用済み小型家電の発生量は微々たるものでも、広域処理を前提に限られた認定事業者のみで全国のパイを分け合うなら、市場規模として十分に大きいとの見方も出来る。「再資源化事業計画」で一定以上の外形基準を満たせば認定事業者になれることが建前だが、これまで発表された企業名を見てもそのハードルは高い。制度当初の意図はともかく、「大臣認定」は認定事業者に対して小型家電リサイクルという枠組みを超えたブランド力を与えてくれるはずである。

 制度の導入が、海外に輸出されてきた非鉄金属等混合物、いわゆる「雑品」等の国内集荷拡大に与える影響も大きい。大手量販店による宅配ルートの帰り便で回収された小型家電製品の多くが、そのままコンテナ詰めされて「再生資源」として海外に輸出されてきたことは周知の事実である。日本政府は、いわゆる「偽装リユース」も含めた違法輸出に対する水際対策を強化しており、結果国内での処理・処分需要が高まる可能性が高い。こうした中、認定事業者として家電量販店による「下取り回収」を活用して効率の高い収集運搬システムを構築すれば、他のスクラップ業者等との差別化を図ることも可能になる。

 一方の自治体が制度に参画する理由として、消極的だが最も支配的な理由は「制度化された以上何もしない訳にはいかないから」という点にある。メディア等を通じて「都市鉱山」というキーワードが広く世間に普及した以上、各自治体は小規模なボックス回収を含め、少なくとも議会や市民に対して説明がつく範囲での取組みは進める必要があるためである。環境省は、実証事業を通じて自治体がリサイクルシステムを立ち上げる際の初期費用に係る支援等を行っている。こうした支援策は、「スモールスタートで様子を見たい」という自治体ニーズにマッチしており、制度参加のハードルを下げる効果が生まれている。

 次に、「回収した小型家電を有価で再資源化事業者に販売出来れば、ごみ処理コストを削減出来るから」という理由も考えられる。例えば高品位の物品のみをトラック一杯分集めて引き渡しを行えば有価で買い取ることも可能だが、それは通常のスクラップ取引の範囲内での売買に過ぎない。現実に回収ボックスには携帯電話等金属としての品位が高い物品のみならず、一般廃棄物として処理・処分せざる得ない物品も含まれる。結果、収集運搬と処理・処分費用の合計を上回る付加価値がある物品のみが集まる可能性は低い。それでも、特定対象品目等を対象としたボックス回収等が始まれば後戻りすることは考えにくいため、有価売却の可否を問わず、小型家電リサイクルは定着していくはずである。

 最後に財政逼迫を背景に、「不燃ごみや粗大ごみの処理費やその後の処分費を削減したいから」という自治体も存在する。いわゆる「ピックアップ回収」により、例えば不燃ごみとして回収された小型家電製品の抜き取りを行って認定事業者ルートに廻すことで、自治体として保有する破砕機等の摩耗や故障を防ぐとともに、破砕後の物品の最終処分量を減らすことが可能となる。政府が掲げる14万トン/年の回収実現には、「ピックアップ回収」を含む本格的なリサイクルシステム構築が不可欠であり、その実現を目指してこそ、制度導入の効果が十分に発揮されるのである。





第3節

 以上の通り、小型家電リサイクル法の施行は、その外形的枠組みや目的を超えた深い含意を持っている。図らずも、同時期の本年5月31日に閣議決定された「第3次循環型社会形成推進基本計画」では、「使用済み製品からの有用金属の回収と水平リサイクルなどの高度なリサイクル」が目標に掲げられており、本制度の狙いは資源循環の「質」の向上に絞られていると言っても過言ではない。

 容器包装リサイクル法、家電リサイクル法及び自動車リサイクル法等では、「拡大生産者責任」という理念を背景にメーカの努力を促すという役割分担が求められたが、小型家電リサイクル法は自治体の一般廃棄物処理責務をそのままに、経済性を高めつつ高度な資源化システムを構築することを求めている。ローカルビジネスであったはずの廃棄物処理業に風穴を開けて、高度な技術力と信頼性を有する事業者と共に持続可能なリサイクルシステムを構築するためのトリガーは自治体が握っている。全国の自治体には、制度の意義を正確に理解した上で、国のお墨付きを受けた認定事業者との連携体制構築を急ぐことを期待したい。

 本制度の定着と円滑な運用は、我が国リサイクル関連制度の体系を一つ上のステージに押し上げる力を持つとともに、国際競争力を有するリサイクルビジネスの育成も促してくれる。その先の展開として「業界再編や淘汰」が加速するのか、「レアメタルの回収高度化」が実現されるのか、「海外市場への展開」を促進するのかなど、リサイクルビジネス全体に及ぼす影響については、これからのお楽しみとして注目していきたい。